大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)11号 判決 1989年9月28日

愛知県豊田市堤町上町五〇番地

控訴人

新實貞雄

愛知県岡崎市明大寺町一丁目四六番地

被控訴人

岡崎税務署長

小柳津一成

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

記録によれば、本件の原判決は、平成元年六月二三日言い渡され、同月二八日控訴人に送達されたことが明らかであるから、右原判決に対する控訴期間は、同年七月一二日をもって満了すべきものであったところ、本件控訴の提起が右控訴期間満了後の同月一三日行われたことも、記録上明らかである。

ところで、控訴人は、右控訴提起に伴い、「深夜受付に行って平成元年七月一二日水午後一一時の説明」と題する書面を提出し、その中で、「平成元年七月一二日午後一一時、裁判所で控訴状を深夜受付けしてもらえると聞いていたので、裁判所の周りをぐるりと回ったが、プッシュボタンらしきものが見当たらず、塀を乗り越えて、裁判所の構内に入った。そして、蛍光灯のついた建物の入口に行って中へ入ろうとしたが、鍵がかかっており、同所にもプッシュボタンは見当たらず、やむなくそのまま帰宅した。」旨述べており、右陳述は、一応民訴法一五九条一項に基づき控訴の追完を求めると共に、その事情を表したものと解することができる。

しかしながら、記録によれば、本件控訴状の提出先となるべき名古屋高等裁判所及び名古屋地方裁判所(合同庁舎。以下「本件裁判所」という。)においては、平生から複数の宿直者を置くことにより深夜でも訴訟書類の受付に支障のない態勢がとられており、右平成元年七月一二日の深夜(午後一一時前後)においても、平生と同様に宿直者が勤務に就いていたものであること、本件裁判所においては、夜間、同裁判所に訴訟書類を提出しようとする者のために、地下一階にある夜間受付場所にインタホンを設けてあり、来訪者は同所に設置されたインタホンで宿直者に来所を告げた上、書類の提出を行うことになっていること、本件裁判所の正門付近には、右夜間受付の場所を指示する案内板が設置されているほか、右夜間受付場所には、夜間は常時「夜間受付」と表示された蛍光灯が点灯され、その直下に、同様「夜間受付」と表示され、説明書の付いたインタホンが設置されていること、が認められる。

右の事実によれば、仮に控訴人が述べるごとく、控訴人において実際に平成元年七月一二日の深夜に本件裁判所を訪れたものの、結局控訴状の提出を果たせなかったものとしても、それが裁判所側の受付態勢の不備によるものでなかったことは明らかというべく、併せて、控訴人において、あらかじめ、若しくは、本件裁判所に赴いた直後に、同裁判所に架電して、受付方法等を確かめることも可能であったと認められる(かかる手段のあることは、いわば社会常識と目される。)こと、控訴人において、何故、敢えて控訴期間満了日の深夜に控訴状を提出しようとしたのかについては、控訴人自身何ら触れるところがないことなどの事情も勘案すれば、本件における控訴状の提出につき、控訴人に民訴法一五九条一項所定の追完事由が存したものとは、到底いうことができない。

以上によれば、本件控訴は、控訴期間を徒過した後に提起されたもので、民訴法一五九条一項所定の追完も許されない場合であったといわざるを得ず、その余の点につき判断するまでもなく、不適法であり、これを補正することができない場合に当たるものというべきである。

よって、民訴法三八三条により本件控訴を却下することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅香恒久 裁判官 窪田季夫 裁判官 畑中英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例